ユーラシア大陸の西の果て、スペイン・ガリシア州。
このエリアのワインに魅了されて久しい。今や世界中で大人気のDOリアスバ
イシャスのアルバリーニョはもちろんだが、DOリベイラサクラのメンシアもとても気
に入っている黒ブドウ品種。この2品種からできる美味しいワインとの出会いを
切望していたのが10年前。
まだまだ日本でもマイナーと呼べる地域であるドイツのラインヘッセン地方から
も先日4人目の生産者を紹介したが、こちらガリシア州も同様にまだまだマイ
ナーと言える。ラインヘッセン地方同様にしかし関係が深い生産者が徐々に
増えてきた。
イリア・オテロ・マソイは5人目となるガリシア州からの生産者となり、ガリシア
州産のスペインワインは弊社内でもカタルーニャに続くスペイン第二勢力となっ
た♪
僕自身が初めてガリシア州に足を踏み入れたのが確か2017年。リオハから
の長距離ドライブで非常にドキドキしながら未開の地に足を踏み入れた。ガリ
シアに入るまでのスペイン内陸は西部劇を思いだす荒野、乾燥した大地が延々と続く。だが、ガリシア州に入るとその風景は一変する。越境時に標
高が徐々に徐々に上がっていき、高い山をいくつか越える。最後の山を越えた後は長い高速道路の下り坂。そこからは緑豊かな風景に次第に変化
していき、坂道を降りきり車から出ると日本を思い出す湿度。緑の山々、樹々に囲まれたしっとりした空気に包まれており、これまで見てきたスペイン
と全く異なる風景と質感に驚かされた。
今まで4人の生産者をご紹介してきたにも関わらずガリシア州について全く触れてこなかったので、この機会にちょっとだけこの地について触れてみた
い。自分の学びの為にも。
ガリシア州(Galicia)は、スペインの自治州の1つで、スペイン北西に位置し南はポルトガル、東はアストゥリアス州とカスティーリャ・イ・レオン州に接
し、北と西は1490キロメートルの海岸で大西洋とカンタブリア海に面する。
州都は巡礼で有名なサンティアゴ・デ・コンポステーラ。しかし最大の都市は港湾都市Vigo(ヴィーゴ)であり、現地訪問時に宿泊でよく使うオウレン
セ(Ourense)の街も州内3番目の人口を誇る美しい町だ。余談だが、このVigoにずっと行きたいと考えていて、それは美味しい魚介にありつけそうだ
からなのだが、2022年夏初めてVigo泊。そこで立ち寄ったMalauva waine barは最高の食事とワインと雰囲気を提供してくれるワインバーだった。
年間を通して穏やかな気候で、最寒月でも摂氏8度以下になることは少ない。1年を通じて雨が降り、年間降水量も豊富である。スペイン内陸と
は異なり、海洋性の気候のために手付かずの緑の森が残されており、州の内陸部はなだらかな山地で比較的標高が高く、東に行くほど標高が高く
北部にテーラ・チャ高原がある。大きな川はないが無数の小さな川が横切っている。山地は険しくないが、内陸の人口は少なく、開発は遅れ過疎や
農業離れが残念ながら進んでいる。
海岸地域は入り江の多い複雑な海岸線で知られており、リアス式海岸の語源となったのがこの地域で、「リアス」とはガリシア語あるいはカスティーリ
ャ語(スペイン語)での入り江(リア)の複数形である。この地形のために漁業が盛んであり、特にリアス・バイシャスでは養殖漁業が盛んである。日本
のバルなどでも有名な料理“タコのガリシア風”、本場で頂いたお皿は絶品だったのはいうまでもない。
イリア・オテロ・マソイはガリシアで生まれ育った生粋のガリシアっ子。彼女の家庭では、父が常に美味しいワインを食卓に準備していたそうで、幼い
頃からワインに慣れ親しんおり、両親が食卓で美味しいワインを楽しむ姿を見てきた。ブドウ栽培や醸造とは関わりのない家庭で育った彼女だが、女
性でも自力で生活を営むことができるようにと自立心を大切にする教育を受けてきたそうだ。もし彼女の両親が全く異なる教育方針だったなら一人
の素敵な女性醸造家の誕生はなかったかもしれない。
学生時代、夏休みに訪れたリベイロの自然の美しさとワインの美味しさに魅せられ、大学は薬学科を履修していたが、その後期では醸造学を履
修し、醸造学を学び始めたイリア。その後博士号を修得するためリオハに移住。当時書いた論文のテーマは、「酸とキャノピーコントロールの関係」。リ
オハに移住後、早くワイン造りに携わりたくて溜まらなかった彼女は、在学中からワイナリーに就職、醸造の下働きから始めた。数年後には醸造長に
昇格。生産量も入社当時の10倍となり技術も経験も大きく成長を遂げていく。 2009年、博士号を終えるためにガリシアに一度戻り、取得後はリア
スバイシャスにあるコーペラティブに就職する。
ここでは毎年何トンものブドウが、 リアスバイシャス各地から搬入されてくるため、各エリアや区画の特徴、を学ぶのにとてもいい経験になったと語る。
しかしリアスバイシャスのコーペラティヴでのワイン造りや、リオハで経験したワイン造りはイリアの目指すものとは大きく異なっていた。
ここでの仕事を辞めた後、リベイラ・サクラを代表するワイナリー、‶ドミニオ・デ・ビベイ″(オーナーはアドルフォ・ドミンゲスというスペインを代表するアパ
レルメーカ ー、プロジェクトマネージャーはプリオラートを代表するサラ・ペレス &レネー・バルビエのカップル、そ して畑の管理はラウラ・ロレンソが 担当
していた現存のプロジェクト)に、専門知識のあるセールスとして入社。今度はボデガを離れて世界を飛び回り始めた。
こうして国際感覚と販売のセンスまでをも磨き十分な経験を積んだイリアは、家族を中心としたより穏やかな生活を送るため、ドミニオ・デ・ビベイを
辞め、これまでの経験を土台に2015年に自分自身のプロジェクトを立ち上げる。写真にもあるような石造りの可愛くて小さな住居兼セラーを憧れの
地リベイロに構え、リベイロでのワイン造りを進めていく(リベイロの弊社もう一人のパートナー、アウガレヴァーダのイアゴ・ガリードとは近所で仲が良で
す)。その傍ら、リアス・バイシャスやヴァルデオーラスでもそれぞれボデガを間借りし、昔ながらの長期熟成型のアルバーニョやゴデーリョのワインも造って
いる。
彼女が持つ所謂自社畑は非常に少ない。なので彼女は過去のキャリアの経験を活かし信頼できるブドウ栽培農家と契約してブドウを購入してい
る。リベイロでは湿度も高くスペイン国内でも雨が多い地域なので完全なるBio栽培でブドウを育てる農家はほぼ存在しないと言っていい。なので、
彼女は銅や硫黄散布以外にも病気を防ぐ為の最低限の農薬散布だけは許容している。しかし、その他の殺虫剤、除草剤、化学肥料は使用せず
に丁寧なブドウ栽培を行う栽培専業農家のみを厳選して契約している。そのブドウの購入価格も通常の買いブドウの3倍近い金額を払っているそう
だ。(弊社のリアスバイシャスのパートナー、ナンクラレスと同様のスタイルである)。
様々な栽培家の区画のブドウを使用する利点もある。気候、地理条件、栽培方法の異なるミクリマから収穫される良質のブドウをブレンドすること
がワインの味わいに奥行きと複雑味を生み、長期熟成に適するワイン造りへと繋がっている。
しかし彼女がブドウ、品種をブレンドする最大の理由は、リベイロ昔ながらのスタイルを表現したいからである。単一ブドウでワインを造る事でなく、土
着品種のブレンドstyleこそがリベイロで昔から行われてきた伝統あるワイン造りだ。時にDO取得にもこだわらず白と黒ブドウもブレンドする徹底ぶり
だ。
白ブドウでは、トレイシャドゥーラ、ゴデーリョ、ロウレウイラ、トロンテス、カイーニョブランコ、etc。
黒ブドウはカイーニョロンゴ、カイーニョティント、ソウソン、メンシア、メレンサオ、ブランセリャオ、フェロル、etc。
その多くが混植されており、多くのキュヴェで混醸しているので味わいは複雑で多様性があり、収穫のタイミングや醸造センスを非常に問われるワイ
ン造りをしている。
また、彼女は実は大の亜硫酸アレルギーであり亜硫酸が入っているワインは試飲する事も含めて大の苦手。リベイロの自宅ボデガで造る多くのワイ
ンは、もちろん醸造中のワインの状態を見極めながらだが瓶詰めまでは基本的には亜硫酸を添加しない(醸造中、彼女が試飲できるためでもあるそ
うだ)。瓶詰め前に極少量の亜硫酸を添加して瓶詰めするワインがほとんどだ。将来的にオートクチュールで完全亜硫酸無添加のワインを日本向け
へ造ってもらう話も進んでおりますのでご期待ください!(これは実はナンクラレスでも進んでいるのだ!)
※ボデガを間借りして醸造しているDOリアスバイシャスとDOヴァルデオラスのワインは、自分が留守中の間のリスクを避けるためマロラクティック時にも
亜硫酸は添加している。
イリアのワインは、畑の特徴やガリシアの自然をナチュラルに表現しながらも、確かな技術と経験に支えられたクオリティーの高さと際立ったキャラクタ
ーを併せ持つ。これは彼女自身の性格と先述したバックグラウンドからきているのだろう。明確な目標設定とそれに向かって突き進む強い意志をも
ち、スペインでも数少ない叩き上げの女性醸造家の道を歩いてきたイリア。
自宅ボデガの2Fは住居となっており、旦那さんと3人の子供たちの妻であり母でもある彼女。初訪問時には写真にある彼女特製の豚料理をたら
ふく頂いた。その時にちょいちょいと顔を出していた小学生ほどの長男君は今がわんぱく盛りのようだが、幸せな家庭の一端を垣間見たひと時で畑や
ボデガとは全く異なる雰囲気の彼女の表情にも触れられた。
ワイン同様、懐と奥行きが深くエネルギッシュな女性であり、強いけどとてもしなやか。そしてとても明るい。ワインは生産者を表すと常々思ってるが、
あーやっぱり♪
Anaguma アナグマ21
1000ml /赤・ミディアム
土壌 花崗岩
面積・収量 1ha・50hl/ha
標高・向き 80 ~ 350m・西
カイーニョ・ロンゴ50%
ソウソン50%(手摘み/平均34年)
9月20日収穫/全房で解放桶とプラスティックタンクで
48時間スミマセラシオンカルボニック後、空気圧式圧搾
解放桶とプラスティックタンクで発酵(1日3回ピジャージュ)
熟成 15hlのフードルで熟成/無濾過・無清澄/瓶詰め:2023年8月12日
So2 無添加 トータル:20mg/L
アルコール度数 11%
酵母:自生酵母
カイーニョ・ロンゴとソウソンを全房で開放桶とプラスティックタン
クで48時間スミカルボニック後プレスし発酵、15hlのフードルで熟
成しました。紫ガーネット色、スミレやリンゴ、ラズベリー、イチゴの
アロマ、柔らかく冷涼で摘みたてベリーの酸味に控えめなタンニン、
塩味とミネラルが感じられ中程度のアルコールと余韻短めのラズ
ベリー香がアフターのアクセントとなっています。


