グッド・インテンションズ・ワイン・カンパニーGood Intentions Wine Co.を知るうえで、まず知っておきたいのが、彼らのワインが造られている南オーストラリア州・Mount Gambier(マウント・ガンビア)という土地です。
オーストラリアのワイン産地と聞くと、Barossa ValleyやMcLaren Valeのような、太陽をたっぷり浴びた濃厚な果実味のワインを思い浮かべる方も多いと思います。ところが、Good Intentionsが拠点を置くMount Gambierは、そのイメージとは少し違います。
南極海の影響を受ける冷涼な土地で、しかもこの地域には火山の痕跡が残っています。地下には古い石灰岩が広がり、そこにはフリント(燧石)も存在する。火山性の土壌と石灰岩、そして冷涼な気候。こうした複雑な環境が、Good Intentionsのワインを理解するための出発点になります。
この土地でワインを造っているのが、Andrew Burchell(アンドリュー・バーチェル)と妻Louiseです。
彼らのワイン造りを面白くしているのは、単に「ナチュラルワインを造りたい」というところから始まっているわけではないことです。
Andrewはもともとこの地域に縁があり、一度この土地を離れた後、再びMount Gambierへ戻ってきました。そして家族と暮らしながら、農業をし、ブドウを育て、ワインを造るという生活を始めます。
そこには、ワインだけではない考え方があります。
自分たちが暮らす土地を大切にすること。
土壌を健全に保つこと。
食べ物を育てること。
家族と過ごすこと。
音楽を楽しむこと。
そして、仲間と一緒に美味しいものを飲むこと。
Good Intentionsという名前にも、そんな彼らの姿勢が表れているように感じます。
だから彼らにとってワインは、単なる「商品」ではありません。
その土地で暮らすこと、その土地で農業をすること、その土地から生まれたものをみんなで楽しむこと。その延長線上にワインがあります。
もちろん、造り手としてはナチュラルワインの考え方を大切にしています。
有機的な栽培を行い、ブドウは手摘み。醸造では野生酵母を使い、古いフレンチオークなどを活用しながら、できるだけ人間がワインをコントロールしすぎない。無清澄・無濾過で仕上げるワインも多く、SO₂も必要最小限に抑えています。
ただ、ここで「自然派だから、何もしないワイン」と考えてしまうと、Good Intentionsの面白さを少し取り逃がしてしまいます。
彼らは、何もしないことを目的にしているわけではありません。
むしろ、畑ではしっかりと仕事をする。
土壌や植物を見て、ブドウを育て、その年の状態を見極める。そのうえで、醸造の段階では必要以上に手を加えず、ブドウと土地が持っているものをできるだけそのまま残していく。
言い換えれば、「放っておく」のではなく、「必要なところだけ手を入れる」。
この考え方が、Good Intentionsのワインにはよく表れています。
そして、実際に飲んでみると、そこには一般的なオーストラリアワインとは少し違った表情があります。
もちろん果実はあります。
ただ、果実の甘さや濃さだけで押してくるわけではありません。
冷涼な気候からくる酸、石灰岩や火山性土壌を思わせる硬質な質感、そしてどこか塩っぽいニュアンス。ワインによっては、土っぽさやスパイス、ハーブのような複雑さも感じられます。
造り手自身も、この土地の特徴を「aggressive」「gritty」「saline」と表現しています。
力強く、少しざらっとしていて、塩味がある。
これは、いわゆる「つるんと綺麗なワイン」とは少し違います。
口当たりに少し引っかかりがあり、飲んでいると舌の上に質感が残る。そして、その質感と酸があるからこそ、料理と合わせたときに面白くなる。
ここがGood Intentionsの魅力のひとつです。
例えば、彼らのRelatively Whiteというワインでは、ソーヴィニヨン・ブランを長めに果皮と接触させたうえで、古樽で熟成させています。
一般的なソーヴィニヨン・ブランなら、フレッシュな香りと爽やかな酸を前面に出すことが多い品種です。
ところがGood Intentionsは、あえて果皮との接触や樽熟成を組み合わせる。
すると、単純な「爽やかな白ワイン」ではなく、果皮由来のほろ苦さやタンニン、澱からくる厚み、樽による複雑さが加わってきます。
白ワインでありながら、どこか赤ワインのような「噛める」感覚がある。
これも、Good Intentionsが目指しているワインの面白さです。
Gris Diddly Deeも同じように、彼らの自由な発想を感じさせるワインです。
Pinot GrisとPinot Noirを組み合わせ、白ブドウの果皮との接触による質感と、赤ブドウ由来の果実感を重ねる。
「白か赤か」「オレンジワインか」というカテゴリーだけでは説明しきれない。
そんな境界線の曖昧さも、Good Intentionsらしさのひとつです。
一方で、Relatively Redのようなワインを見ると、彼らがいかに既存の品種イメージに縛られていないかが分かります。
オーストラリアを代表する黒ブドウといえばShirazですが、Good IntentionsのShirazは、いわゆる濃厚でアルコール感のあるオーストラリアン・シラーズとはかなり違います。
軽やかで、赤い果実が明るく、酸があり、スパイスや土っぽさが感じられる。
「Shirazだから濃いワインを造る」のではなく、「この土地で育ったShirazを、この土地らしく表現する」。
そこには、品種よりも土地を優先するような考え方があります。
そして現在のGood Intentionsを見ていると、もうひとつ興味深い変化があります。
初期のGood Intentionsは、ナチュラルワイン好きから注目される、自由で実験的なワインのイメージが強かった。
しかし現在は、Estate WinesやSingle Vineyard Winesなど、より畑や産地そのものを意識したワイン造りにも力を入れています。
これは、彼らが単に「ナチュラルワインを造る人たち」から、「Mount Gambierという土地そのものを表現する造り手」へと、少しずつ進化しているようにも見えます。
だからGood Intentionsを「オーストラリアのナチュラルワイン」とだけ説明するのは、少しもったいない。
本当はその前に、
「Mount Gambierという冷涼な土地があって、そこには火山があり、石灰岩があり、フリントがある。そして、そこで家族と暮らしながら農業をする人たちがいて、その土地をできるだけそのままワインにしようとしている。」
という話があります。
その結果として生まれたものが、Good Intentionsのワインです。
だから飲んでみると、単純に「自然派っぽい味」がするわけではありません。
酸がある。
塩味がある。
土っぽさがある。
果実もある。
そして、ときどき少し野性的で、ざらっとした質感がある。
でも、それらがバラバラではなく、ひとつのワインの中に共存している。
それは、綺麗に磨き上げられた工業製品というより、その土地の風景を少しだけボトルに詰め込んだようなワインです。
Good Intentionsという名前を直訳すれば、「良い意図」。
けれど、このワインを飲んでいると、その名前は単なるブランド名ではなく、彼らのワイン造りそのものを表しているようにも思えます。
土地を大切にする。
できるだけ自然な形でブドウを育てる。
必要以上にワインをいじらない。
家族と暮らす。
仲間と食べる。
そして、最後はみんなで楽しく飲む。
そんな暮らしの延長線上にあるワイン。
それが、Good Intentions Wine Co.なのだと思います。
だからこのワインは、「ナチュラルワインだから飲んでみてください」というより、
「オーストラリアにも、こんな土地があって、こんなワインを造っている人たちがいるんですよ。」
そんなふうに紹介したくなるワインです。
Frankie
フランキー 2024
娘の名を冠したワイナリー一番人気のフラン。ライムストーン・コーストに位置するテッラロッサ土壌の畑から。除梗され開放タンクで自然醗酵、ステンレスで 8 ヶ月熟成。少量の酸化防止剤と共にボトリング。軽いフィルタリング、清澄剤不使用。甘草や磯海苔に硬質さ。酸による輪郭をしっかりと感じるカベルネ・フラン




